好きなだけじゃだめなんだ
「大切なことは、いつもマンガが教えてくれる。」
これは2011年6月25日に創刊号が発売され、2014年10月10日に発売した号で休刊した『ジャンプ改』という青年漫画雑誌のキャッチフレーズ。ジャンプ改 - Wikipedia
集英社が発行していたこの漫画誌は、ジャンプが頭についているものの、男性読者に特化したこれまでの青年誌作りを見直し、より女性の心にも訴求することを意識した、性別や年齢の枠を越えた「純粋マンガ誌」というコンセプトを打ち出していた。
創刊号には当時「のだめカンタービレ」終了後初連載を謳った二ノ宮知子先生やねむようこ先生、渡辺ペコ先生や、今期「凪のお暇」がドラマ化で更に話題のコナリミサト先生という女性読者が中心の漫画誌で活躍していた方から、その少し前までビッグコミックスピリッツで「セルフ」を連載していた朔ユキ蔵先生、「ギャグマンガ日和」でお馴染みの増田こうすけ先生といった名前が連なり、以後武井宏之先生が「シャーマンキング」の続編を連載するということで話題になるなど、作家の方の名前だけでも読む価値のある漫画雑誌であるというのは、少なからずとも私にとっては間違いないことだった。
実際に「87CLOKERS」(二ノ宮知子)「お慕い申し上げます」(朔ユキ蔵) 「ボーダー」(渡辺ペコ) は創刊号から魅力を放っていたし、のちのち「予告犯」(筒井哲也) は実写映画化、「孤食ロボット」(岩岡ヒサエ) はドラマ化にもなり、「ボール・ミーツ・ガール」(たまきちひろ/綱本将也)「娘の家出」(志村貴子)「かげきしょうじょ!」(斉木久美子) などなど、面白い漫画がたくさん掲載していた。
ここですべての魅力的な作品名をあげることは難しいけれど、私にとって漫画雑誌とは作品や作家との出会いの場であり、『ジャンプ改』はそのコンセプト通り枠を越えた出会いを私にもたらしてくれた。
私にとってその出会いは宝物であり、宝物は大事に胸にしまい、時折取り出してはひとりで見つめ続けていた。
その宝物のひとつが前述にもある斉木久美子先生の「かげきしょうじょ!」であり、『ジャンプ改』が休刊した後白泉社の『MELODY』に移籍し「かげきしょうじょ!!」として連載中である。
『かげきしょうじょ!!』
かげきしょうじょ!! シーズンゼロ 上巻 (花とゆめコミックススペシャル)
- 作者: 斉木久美子
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2017/08/11
- メディア: Kindle版
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「渡辺さらさ、オスカル様になります!」大正時代に創設され、未婚の女性だけで構成された『紅華歌劇団』。
その音楽学校に入学した少女たちの青春が、幕を開ける──!
前置きが長くなってしまったがつまり、「かげきしょうじょ!!」という作品をコミックス「かげきしょうじょ!! 1」(花とゆめコミックス)から読もうとするとそれは「かげきしょうじょ!2」(ヤングジャンプコミックス)の続きということになる。
ということもあり、「かげきしょうじょ! 1~」(ヤングジャンプコミックス)=「かげきしょうじょ!!シーズンゼロ 上下」(花とゆめコミックス)→「かげきしょうじょ!! 1~」というのが流れだ。
ちなみに主要人物のひとりである「奈良田 愛」は国民的アイドルグループ「JPX48」の元メンバーという設定であるが、この「JPX」は「JumP X」(『ジャンプ改』の"改"はギリシア文字の"X")に由来しているとのことだ。(「かげきしょうじょ!! シーズンゼロ」より)
そしてここ最近、この私の宝物は、Twitter上でとても、とても、とても! 大人気だ。
何せとても面白いのだ。
舞台も登場人物も表現も感情も、どこをとっても魅力的なのだ。
たぶんめちゃくちゃ読者が増えたのではないだろうか。
私は少し複雑な気持ちでそれを眺めていたのだが、とあるツイートに、自身のエゴを炙り出されてしまった。
そのツイートを直接表記はしないが、つまり、私はこのすごく面白い漫画を独り占めしようとしていたのだ。私はだって知っていたのだ、ずっと。
現実的には独り占めなんてことは出来ないのだが、それでも、そういうことなのだ。
白泉社の女性向け漫画雑誌『AneLaLa』は2017年に、「ガラスの仮面」が掲載されていた『別冊花とゆめ』や集英社の『YOU』は2018年に休刊した。
紙媒体の漫画雑誌は確実に減少し、電子媒体に移行しているような現状もある。
Twitterなどで作者自身がPRし、作品との出会いは雑誌ばかりではなくなった。
「かげきしょうじょ!!」は勿論作品自体に力がある。Kindleでセールだったとしても、それだけがランキングにずらりと並ぶ理由ではないはずだ。
現在の掲載誌である『MELODY』ももう本当に大変に魅力的な雑誌で、よしながふみ先生の「大奥」、成田美名子先生の「花よりも花の如く」、清水玲子先生の「秘密」、『別冊花とゆめ』の休刊にあたり移籍した日渡早紀先生の「ぼくは地球と歌う」や、あの「八雲立つ」の続編を樹なつみ先生が連載していたりとめちゃくちゃに面白い。ここに川原泉先生、ひかわきょうこ先生、河惣益巳先生がいて、マツモトトモ先生や麻生みこと先生らがいるのだからめちゃくちゃに強い。種村有菜先生がきたときにはさすがに驚いたが、それもまた出会いだ。
現在発売中の『MELODY』はひかわきょうこ先生の画業40周年記念号なので2冊購入。付録が最高だ。
この最高な漫画雑誌も、いつかなくなってしまうのだろうか。
そんなのはつらい。
だから私は独り占めをやめようと思う。
私の出会いや宝物は、どこかにいる誰かにとってもそうなり得るのかもしれない。
面白いと伝えよう。
感情を与えられたと伝えよう。
難しいことはわからないけど、好きなだけじゃ潰えてしまうものかもしれないと、思い出した。
『ジャンプ改』休刊当時、「かげきしょうじょ!」ほかいくつかの作品は移籍が決まっていた。
しかし、決まらなかった作品もある。
信濃川日出雄先生の「少年よギターを抱け」がそうだった。
めちゃくちゃ面白い漫画だったのに、打ち切りにさせてしまったのは、間違いなく私のような読者のせいだろうと思う。
『くらげバンチ』に連載中の「山と食欲と私」がめちゃくちゃ売れていてめちゃくちゃ嬉しい。
嬉しい、嬉しいけど、作者の方が作品を続けようと頑張っていたことを私は忘れてはいけない。
電子書籍の普及によって作品と出会いやすくなった側面は勿論ある。
しかし、もしこの備忘録であり愚行録を読んで、何とはなしに紙媒体の漫画雑誌を手にとる方がいたらいいなと思う。
もし出会いがあったら、誰かに伝えてほしいとも思う。
私にはだいぶ時間がかかってしまったが、本当に
「大切なことは、いつもマンガが教えてくれる。」